“アフリカ連合(AU)の役割:国際安全保障への貢献と挑戦”

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アフリカ連合(AU)の役割:国際安全保障への貢献と挑戦 国際安全保障/機関・協定
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アフリカ連合_安全保障 本稿では、AUがどのようにして独自の安全保障体制を築き上げてきたのか、その成果と直面する試練、国際安全保障におけるその役割、そして日本との協力関係について、多角的な視点から深掘りしていきます。

アフリカ連合(AU)の役割――国際安全保障への貢献と挑戦、そして日本との協力

21世紀初頭、「アフリカ主導による平和と繁栄」という力強いビジョンを掲げ、アフリカ大陸に新たな時代の幕が開きました。2002年にアフリカ統一機構(OAU)から発展改組して誕生したアフリカ連合(AU)です。加盟国は西サハラを含む55の国家・地域に拡大し、その設立条約には、加盟国の内政に介入して戦争犯罪や人道に対する罪を阻止できるという、画期的な「介入権」が盛り込まれました。

これは、脱植民地化後の「内政不干渉」を原則としていたOAUからの大きな転換点であり、アフリカ自身が安全保障の責任を担うという強い意志の表れです。AUの安全保障活動の中核を成すのが「アフリカ平和・安全保障アーキテクチャー(APSA)」であり、平和・安全保障理事会(PSC)、大陸早期警戒システム(CEWS)、アフリカ待機軍(ASF)など多層的なメカニズムを構築しています。ソマリアやマリといった紛争地域での平和支援ミッションを展開し、国連など国際社会とも緊密に連携することで、国際安全保障の一翼を担っています。

その一方で、頻発する軍事クーデター、慢性的な資金不足、そしてASFの実働化の遅れといった深刻な課題にも直面しています。日本はアフリカ開発会議(TICAD)プロセスを通じて、AUの平和構築能力強化を長年にわたり支援しており、訓練センターの整備や早期警戒システムへの技術協力などを通じて、AUの取り組みを後押ししています。

AUの誕生と「アフリカ主導」の理念

アフリカ連合(AU)は、2002年7月に南アフリカのダーバンで開催された首脳会議で正式に発足しました。前身のアフリカ統一機構(OAU)が脱植民地化とアフリカ大陸の団結を主な目的として1963年に設立されたのに対し、AUは21世紀のアフリカが直面する新たな課題に対応するため、より統合的で行動的な組織として再出発しました。

AUの加盟国は、モロッコを除く全てのアフリカ大陸の国々および沖合の島嶼国、そして係争地である西サハラ(サハラ・アラブ民主共和国)を含む55の国家・地域で構成されています。 本部はエチオピアの首都アディスアベバに置かれています。

OAUからAUへの転換点

OAUは、アフリカ大陸から植民地主義とアパルトヘイトを排除するという歴史的な使命を果たしましたが、冷戦終結後のアフリカ各地で発生した内戦や国家崩壊といった新たな危機に対しては、「内政不干渉」を原則とするOAU憲章が足かせとなり、効果的な対応が困難でした。

特に、1994年のルワンダでのジェノサイドは、アフリカ自身が平和と安全保障に対する責任をより積極的に担う必要性を強く認識させる契機となりました。 こうした反省を踏まえ、AU設立条約では、OAU憲章にはなかった画期的な規定が盛り込まれました。それが第4条hに明記された、加盟国において戦争犯罪、ジェノサイド、人道に対する罪が発生した際に、AUがその国の内政に介入できる権限です。

これは「内政不干渉原則」からの大きな転換であり、「アフリカの危機はアフリカ自身が解決する」という、AUの「アフリカ主導」の理念と「積極的平和主義」の姿勢を明確に示すものでした。

「人間の安全保障」とアフリカ開発のアジェンダ

AUが掲げるビジョンは、単なる国家間の協力にとどまりません。設立条約の目的には、「民主的原則、人権、国民の参加による良い統治を促進・保護すること」や、「持続可能な開発を促進すること」も含まれています。これは、紛争や貧困から個々の人間を守り、その能力を高めるという「人間の安全保障」の考え方を重視していることを示唆しています。

AUは、アフリカ大陸が直面する複合的な課題(貧困、疾病、気候変動、テロ、人道危機など)に対処するためには、平和と安全、開発、そして良い統治が不可分であるという認識に基づいています。長期開発計画である「アジェンダ2063」では、「平和で安全なアフリカ」「繁栄したアフリカ」といった目標が掲げられており、安全保障はアフリカ全体の開発と変革を実現するための基盤として位置づけられています。:

アフリカ平和・安全保障アーキテクチャー(APSA)――紛争予防から介入まで

AUがその安全保障上の責任を果たすための中心的な仕組みが、アフリカ平和・安全保障アーキテクチャー(APSA:African Peace and Security Architecture)です。APSAは、紛争の予防、管理、解決、そして平和構築に至るまでを包括的に担うことを目指しており、複数の要素が連携して機能する多層的な枠組みとなっています。

意思決定の中枢:平和・安全保障理事会(PSC)

APSAの政治的意思決定の中枢となるのが、平和・安全保障理事会(PSC:Peace and Security Council)です。2004年5月25日に設立されたPSCは、15カ国の理事国から構成されており、そのうち5カ国は任期3年、10カ国は任期2年で、大陸の5つの地域から選出されます。

PSCは常設の機関であり、AUの平和と安全保障に関する事態が発生した際に、迅速に会合を開き、意思決定を行う権限を持っています。具体的には、紛争状況の監視、平和維持活動(PKO)や平和支援活動の承認、制裁措置の発動、紛争当事者への働きかけなどを行います。その決定はAUの全ての加盟国を拘束する法的効力を持つとされており、APSAの実効性を担保する上で極めて重要な役割を果たしています。

情報の「目」と実行部隊:「大陸早期警戒システム(CEWS)」と「アフリカ待機軍(ASF)」

APSAの機能は、PSCの意思決定だけでなく、紛争の兆候を早期に捉える情報収集・分析メカニズムと、必要に応じて現地に展開する実行部隊によって支えられています。

  • 大陸早期警戒システム(CEWS:Continental Early Warning System):CEWSは、アフリカ大陸全域における紛争や人道危機のリスクを早期に検知し、AUの意思決定機関に情報を提供するシステムです。加盟国、地域経済共同体(RECs)、NGO、メディア、学術機関など、様々な情報源からデータを収集・分析します。
    リスク指標(政治情勢、経済状況、人権状況、自然災害など)をリアルタイムまたは準リアルタイムで監視し、紛争の可能性が高まっている地域を特定します。 この情報はAU委員会やPSCに送られ、紛争予防や早期介入の判断材料となります。CEWSは、アフリカ大陸における紛争予防のための「目」としての役割を担っています。
  • アフリカ待機軍(ASF:African Standby Force):ASFは、PSCの決定に基づき、アフリカ大陸内の紛争地域に迅速に展開することを目的とした、AUの多国籍平和維持部隊構想です。大陸は五つの地域(北、西、中央、東、南)に分けられ、それぞれが地域即応部隊を編成・維持することを目標としています。ASFは、軍事部隊だけでなく、警察、文民要員、専門家なども含む多角的な部隊として構想されており、停戦監視、人道支援、選挙支援、復興支援など、幅広い任務に対応できる能力を持つことを目指しています。
    当初は2010年の運用開始を目指していましたが、部隊の訓練、装備の標準化、兵站体制の構築、そして安定的な資金確保といった面で遅延が発生しており、完全な展開能力の獲得には至っていません。 ASFの実働化は、AUが「アフリカ主導の平和維持活動」を本格的に実施するための喫緊の課題となっています。

紛争予防・調停を担う専門家集団:「賢人パネル」と「平和基金」

APSAには、政治的な意思決定や部隊派遣だけでなく、紛争の予防や解決に向けた専門的な助言や調停を行うための機関も含まれています。賢人パネル(Panel of the Wise)は、アフリカ大陸の平和、安全保障、開発の分野で豊富な経験を持つ、元国家元首や著名な学者、市民社会のリーダーなどで構成される諮問機関です。

賢人パネルは、紛争が発生する可能性のある地域への訪問、紛争当事者との対話、調停活動、紛争予防に関する報告書の作成などを行い、PSCやAU委員会に助言を提供します。その権威と経験は、紛争当事者間の信頼構築や対話促進において重要な役割を果たしています。

これらのAPSAの活動を支える資金メカニズムも重要です。AUの平和・安全保障活動に特化した財源として、AU平和基金(AU Peace Fund)があります。平和基金は、加盟国からの拠出金、アフリカ域外のパートナーからの寄付、そして革新的な資金調達メカニズム(例:一部輸入品への課税など)によって賄われることが構想されています。

しかし、現実には加盟国からの拠出率は目標の25%程度に留まっており、活動に必要な資金の大部分を域外のパートナーからの寄付に依存している状況が続いています。 安定した財源の確保は、APSAの実効性を高めるための長年の課題となっています。

国際安全保障への直接的貢献――アフリカ主導ミッションの展開

AUは、APSAの枠組みを活用し、アフリカ大陸各地で発生する紛争や危機に対し、独自の平和支援ミッションを展開することで、国際安全保障に直接的に貢献しています。これらのミッションは、時に国連平和維持活動(PKO)と連携したり、あるいは国連PKOへの移行の基盤となったりするなど、国際社会との協力のもとで実施されています。

ソマリアにおける長期ミッション

AUが展開したミッションの中で最も長く、そして大規模なものが、ソマリアにおける平和支援活動です。2007年に始まったAUソマリア・ミッション(AMISOM:African Union Mission in Somalia)は、ソマリア暫定連邦政府を支援し、イスラム過激派組織アル・シャバーブとの戦闘や、国内の安定化を図ることを目的としていました。

AMISOMは、AU主導のミッションとして展開されましたが、その資金や兵站は、国連やEU、米国といった国際パートナーからの支援に大きく依存していました。2022年、AMISOMはAUソマリア移行ミッション(ATMIS:African Union Transition Mission in Somalia)へと移行しました。ATMISは、ソマリア政府自身の治安能力強化を支援し、段階的に治安権限をソマリア国軍や警察に移譲することを目標としています。

そして2024年には、国連安全保障理事会決議2767によって、ATMISに代わる新たなミッションとして「AU主導ソマリア支援ミッション(AUSSOM:AU-Led Somalia Support Mission)」が承認され、ATMISからの段階的な再編が進められる方針が示されました。

これは、アフリカ自身が主導する安全保障ミッションが、国連安保理の承認を得て国際的な支援を受けつつ実施されるという、AUと国連の緊密な連携と、アフリカにおける平和維持活動のあり方の変化を象徴する事例です。

紛争予防・調停活動の実績

AUは、部隊派遣といった物理的な介入だけでなく、外交的な手段を用いた紛争の予防や調停にも積極的に取り組んでいます。PSCや賢人パネルは、紛争の兆候が見られる国に対し、早期に特使を派遣したり、当事者間での対話を仲介したりする活動を行っています。例えば、2021年にマリで発生した軍事クーデターの後、AUは即座にマリのAU加盟資格を停止し、軍事政権に対して民政移管を求める圧力をかけました。

同様に、ブルキナファソやニジェールで相次いでクーデターが発生した際も、AUは西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)といった地域経済共同体と協調しながら、制裁措置の発動や外交的な働きかけを行いました。こうしたAUの対応は、非合法的政権交代に対する断固たる姿勢を示すものであり、一定の抑止効果を発揮しています。

しかし、近年はこれらサヘル地域三国の軍事政権がECOWASからの脱退を表明し、「サヘル諸国同盟(AES)」を結成するなど、地域機構間の協力関係が複雑化しており、AUの調停努力が奏功しないケースも見られています。

地域経済共同体(RECs)との重層的協力

アフリカ大陸には、ECOWAS(西アフリカ)、ECCAS(中部アフリカ)、IGAD(東アフリカ)、SADC(南部アフリカ)、COMESA(東南部アフリカ市場共同体)、AMU(アラブ・マグレブ連合)、CEN-SAD(サヘル・サハラ諸国共同体)といった八つの地域経済共同体(RECs:Regional Economic Communities)が存在します。

これらのRECsも、それぞれ独自の平和・安全保障メカニズムを持っています。APSAの枠組みは、大陸レベルのAUと地域レベルのRECsが連携し、役割分担を行う「補完性の原則」に基づいて構築されています。 紛争の初期段階や小規模な危機に対してはRECsが一次的な対応を担い、RECsの能力を超える大規模な紛争や、複数の地域にまたがる危機に対してはAUが主導的な役割を果たすという考え方です。

例えば、ECOWASはリベリアやシエラレオネ、コートジボワールなどで独自の平和維持活動を展開した実績があります。IGADはスーダンやソマリアの和平プロセスで重要な役割を果たしてきました。このように、AUとRECsが連携することで、アフリカ大陸全体をカバーする重層的かつ柔軟な安全保障体制を構築することを目指しています。

日本とアフリカ連合(AU)の協力――TICADを通じた支援

日本は、アフリカ大陸の平和と安定が世界全体の平和と繁栄にとって不可欠であるとの認識から、アフリカ連合(AU)およびアフリカ諸国との連携を重視しています。特に、日本が主導するアフリカ開発会議(TICAD:Tokyo International Conference on African Development)プロセスを通じて、AUの平和構築能力強化に積極的に貢献しています。

TICADを通じた平和構築支援の実績

日本は1993年にTICADプロセスを開始して以来、アフリカの開発課題に対し、長期的な視点に立った支援を行ってきました。TICADは、アフリカ自身のオーナーシップと国際社会のパートナーシップを重視しており、AUもその重要なパートナーの一つです。日本の対アフリカ平和構築支援は、主に人材育成と能力強化に重点が置かれています。

例えば、AUやRECsが平和維持活動に必要な部隊を訓練するための施設整備や、司令部要員の研修などを支援してきました。具体的には、アフリカ各地に設立された平和維持訓練センター8カ所に対し、日本は資金提供や専門家派遣などの協力を実施しています。

また、紛争後の文民部門の能力回復も重要であるとの考えから、法制度整備、司法関係者、警察官、文民行政官などの育成にも力を入れており、これまでに5,000人を超えるアフリカの人材が日本の支援を受けて研修に参加しています。 これらの支援は、APSAの実効性向上に不可欠な「ソフト」の側面からの能力強化に大きく貢献しています。

早期警戒システムへの技術協力

AUの紛争予防能力を強化する上で重要な大陸早期警戒システム(CEWS)に対しても、日本は技術協力を通じて支援を行っています。日本政府は、AU平和基金への拠出などにより、CEWSが収集するデータ分析のアルゴリズム高度化や、加盟国・RECsとの間で情報を共有するためのデータ共有プラットフォームの改修などを支援しています。

これは、CEWSがより正確に、より迅速に紛争の兆候を捉え、AUの意思決定機関に効果的な情報を提供できるようになることを目的とした支援です。日本の持つ先端技術やデータ分析のノウハウを、アフリカ自身の紛争予防能力強化に活かそうという取り組みと言えます。

今後の協力の展望

TICADプロセスは、2025年8月に日本で開催されるTICAD 9に向けて準備が進められています。TICAD 9でも、AU委員会は日本とともに共同議長を務めることが決定しており、APSAの強化や「アフリカ主導の平和維持」に向けた支援は、主要なアジェンダの一つとなる見込みです。

日本は、部隊訓練や人材育成といった従来の支援に加え、CEWSのような技術的な側面での協力、そしてアフリカ待機軍(ASF)の実働化に向けた兵站や財政面での支援、さらには民間セクターの参画を通じた平和構築(紛争後の雇用創出など)といった、より多角的なアプローチでの支援を強化していくことが期待されます。日本のAUとの協力は、アフリカ大陸の平和と安定に貢献するとともに、日本自身の国際的なプレゼンスを高める上でも重要な意味を持っています。

アフリカ連合(AU)が直面する課題

AUはAPSAの構築や平和支援ミッションの展開といった成果を上げてきましたが、その活動をさらに強化し、「アフリカ主導の平和と安全」を実現するためには、いくつかの深刻な課題を克服する必要があります。

財政と持続可能な資金調達

AUの平和・安全保障活動にとって、最も慢性的な課題の一つが資金不足です。AUが展開する平和支援活動に必要な年間予算は、全体で約8億米ドル規模と見積もられていますが、AU加盟国からの拠出金だけではこのニーズを賄いきれていません。前述の通り、AU平和基金への加盟国拠出率は目標を下回っており、活動資金の大部分をEUや国連、個別国といった域外のパートナーからの自発的な拠出に依存している状況です。

この資金源の不安定さは、ミッションの計画・展開を遅らせたり、活動規模を制限したりする要因となっています。持続可能で予測可能な資金メカニズムの確立は、AUの平和・安全保障活動の実効性を高めるための喫緊の課題です。

この課題に対し、近年重要な動きがありました。国連安全保障理事会は2023年12月、決議2719を採択し、国連がAU主導の平和支援活動に対し、国連PKOと同様に国連分担金を通じて安定的に資金を拠出する枠組みに道を開きました。

これは、アフリカ主導ミッションの財政基盤を強化するための画期的な一歩として評価されています。しかし、この枠組みの具体的な実施には、国連加盟国間での財政負担のあり方に関する調整が必要であり、特に米国など主要ドナー国の負担軽減への懸念をどう解消していくかが今後の課題となっています。

軍事クーデターの連鎖と制度の試練

2020年以降、西アフリカやサヘル地域では、マリ、ブルキナファソ、ニジェールといった国々で軍事クーデターが相次いで発生しており、AUの「非合法的政権交代に対するゼロ容認」原則が試されています。

AUは、これらのクーデター発生後、直ちに当該国のAU加盟資格を停止したり、経済制裁の発動を示唆したりするなど、断固たる姿勢で対応しました。

しかし、これらの国々では軍事政権が権力を維持し、民政移管に向けたプロセスが遅延するなど、AUの制裁や外交努力が期待通りの効果を上げていない現状があります。背景には、軍事政権が国民の一部からの支持を得ていたり、あるいはロシアのような域外勢力が軍事政権への支援を強化しているといった複雑な要因が存在します。

近年のクーデターの連鎖は、AUがアフリカ大陸全体で民主主義と良い統治を定着させる上で、依然として大きな課題に直面していることを浮き彫りにしています。AU単独では対応が困難なケースもあり、ECOWASといった地域機構や国際社会との連携、そして紛争の根本原因(貧困、格差、ガバナンスの欠如など)への対処が不可欠です。

アフリカ待機軍(ASF)の実働化の遅延と能力ギャップ

前述の通り、アフリカ待機軍(ASF)はアフリカ主導の迅速な危機対応を可能にするための重要な構想ですが、その完全な実働化は構想から時間を経てなお遅延しています。ASFは、5つの地域即応部隊合計で約25,000人規模の部隊を、危機発生後14日以内に展開できる能力を持つことを目標としていますが、必要な装備の整備、兵站体制の構築、部隊間の標準化、そして部隊維持のための財政面での課題が解消されていません。

各RECsがそれぞれ部隊を編成・訓練していますが、その能力にはばらつきがあり、 continent-wide な調整と統合が課題となっています。ASFの実働化の遅延は、AUが独自に大規模な平和維持活動を展開する能力を制限しており、依然として国連や個別国の支援に依存せざるを得ない状況を生んでいます。ASFの実働化は、AUの安全保障体制を強化し、「アフリカ主導」の理念を具現化するための喫緊の課題であり、国際パートナーからの継続的な支援が求められています。

今後の展望と国際協調の重要性

アフリカ大陸は、豊かな人的・天然資源と、若い人口構成比率を背景に、高い経済成長の潜在力を秘めていますが、その持続的な成長と安定には、平和と安全保障の確保が不可欠です。AUは、これまでの成果と課題を踏まえ、今後の活動をさらに強化していく必要があります。

APSAの実効性向上に向けた取り組み

APSAの実効性を高めるためには、CEWSによる早期警戒情報の精度向上と、PSCやAU委員会への迅速な伝達、そしてそれに基づいた早期介入の意思決定能力の強化が重要です。CEWSで収集するデータをAIで解析し、より正確なリスク予測を行う研究や、AU委員会とRECsの間でリスク情報をリアルタイムで共有するためのデジタルプラットフォーム(「ハイブリッド警戒ダッシュボード」のような仕組み)の構築が検討されています。

また、ASFの実働化に向けた資金確保や、各地域即応部隊の能力向上、そしてAU委員会とRECs、そして派遣部隊間の司令系統の明確化も急務です。

国連安保理改革とアフリカの代表性強化

国連安全保障理事会で議論される議題の約60%がアフリカ関連であると言われています。しかし、安保理の構成(常任理事国5カ国)は、設立当時の世界の力関係を反映したものであり、アフリカ大陸からは常任理事国が出ていません。

AUは、安保理がより代表性を持ち、正当性を高めるためには、アフリカ大陸に少なくとも2つの常任理事国枠と、5つの非常任理事国枠を与えるべきであると主張しており、国連安保理改革においてアフリカの代表性強化を強く求めています。

日本も、国連安保理の議席拡大を含む改革を支持しており、AUの代表性強化の主張にも理解を示しています。 国連安保理におけるアフリカの発言力強化は、アフリカ自身の安全保障課題に対する国際社会の理解と支援を深める上で重要な意味を持ちます。

非伝統的安全保障課題への対応と国際協調

アフリカ大陸の平和と安全は、テロや紛争といった伝統的な安全保障課題だけでなく、気候変動、食料不足、パンデミック、サイバー攻撃といった非伝統的な安全保障課題とも深く関連しています。気候変動による干ばつや洪水は、食料不足や資源争いを引き起こし、紛争の根本原因となることがあります。

AUは「アジェンダ2063」の中で、気候変動への適応や食料安全保障の確保、そして公衆衛生システムの強化(アフリカ域内でのワクチン製造能力向上など)を優先事項として掲げており、これらの非伝統的安全保障課題への対応もAPSAの枠組みの中で統合的に取り組む必要性を認識しています。

これらの課題はグローバルな性質を持つため、AU単独での対処は困難であり、国連、世界銀行、WHOといった国際機関、そして日本を含む個別の国々との連携による国際協調が不可欠です。資金面での協力、技術支援、そして知識・経験の共有を通じて、アフリカ大陸のレジリエンス(強靭性)を高めていくことが、世界全体の安全保障と持続可能な開発に繋がります。

まとめと結論

アフリカ連合(AU)は、アフリカ統一機構(OAU)から発展改組して以来、約20年という比較的短い期間で、独自の平和・安全保障メカニズムであるアフリカ平和・安全保障アーキテクチャー(APSA)を構築し、アフリカ主導による平和と安全の実現を目指してきました。PSCによる意思決定、CEWSによる早期警戒、そしてASFという実行部隊の構想は、多国間主義に基づく地域安全保障の新しい形を提示しています。

ソマリアにおける長期にわたる平和支援ミッションや、各地での紛争予防・調停活動は、AUが国際安全保障の一翼を担いうる能力を持っていることを示しています。日本は、TICADプロセスを通じて、AUの能力強化、特に人材育成や早期警戒システムへの技術協力などを通じて、AUの取り組みを積極的に支援しており、この協力関係はアフリカの平和と安定に貢献する重要な要素となっています。

しかし、AUの道のりは平坦ではありません。慢性的な資金不足は、AU主導のミッションの規模や持続性を制限しており、資金メカニズムの抜本的な改革が求められています。また、近年のサヘル地域における軍事クーデターの頻発は、AUの規範的枠組みが直面する試練であり、地域機構間の連携強化や、紛争の根本原因への対処の重要性を改めて浮き彫りにしています。アフリカ待機軍(ASF)の実働化の遅れも、迅速な危機対応能力の獲得に向けた喫緊の課題です。

今後の展望として、AUはAPSAの実効性向上、特にCEWSとPSCの連携強化、そしてASFの実働化に注力していく必要があります。また、国連安保理改革におけるアフリカの代表性強化は、国際的な意思決定プロセスにおけるアフリカの発言力を高める上で不可欠です。

さらに、気候変動や公衆衛生といった非伝統的な安全保障課題への統合的な対応と、それに対する国際協調の強化が求められます。国連によるAU主導ミッションへの安定財源供与枠組みの構築は、この課題に対する重要な一歩となるでしょう。

AUのこれまでの歩みは、アフリカ自身が平和と安全の主体となるという強い意志を示すものです。これは、ASEAN(東南アジア諸国連合)のような他の地域機構にとっても、「地域主導の平和構築」のあり方を考える上で重要な教訓となるでしょう。アフリカ連合が直面する課題を克服し、その潜在能力を最大限に発揮するためには、アフリカ自身による努力に加え、日本を含む国際社会からの継続的かつ建設的な支援と協力が不可欠です。AUの成功は、アフリカ大陸だけでなく、世界全体の平和と繁栄に繋がるのです。

参考リンク一覧

  • 出典:African Union「About the African Union」(公式サイト) (Accessed 2024) (URL) – AU概要、加盟国、設立条約第4条hに言及
  • 出典:Britannica「African Union」(大英百科事典) (Accessed 2024) (URL) – OAUからの発展、加盟国に言及
  • 出典:African Union「Peace and Security」(公式サイト) (Accessed 2024) (URL) – APSA概要に言及
  • 出典:African Union「Agenda 2063」(公式サイト) (Accessed 2024) (URL) – アジェンダ2063の目標に言及
  • 出典:African Peace and Security Architecture (APSA) 公式解説ページ(peaceau.org) (Accessed 2024) (URL) – APSAの構成要素に言及
  • 出典:African Union Peace and Security Council (PSC) 公式ページ(peaceau.org) (Accessed 2024) (URL) – PSCの構成、設立日に言及
  • 出典:African Union Continental Early Warning System (CEWS) 公式ページ(peaceau.org) (Accessed 2024) (URL) – CEWSの役割に言及
  • 出典:International Peace Institute (IPI) 「The African Standby Force: A Progress Assessment」(2019) (URL) – ASFの運用課題、遅延に言及
  • 出典:Security Council Report「AU Peace Fund」(2024年2月) (URL) – AU平和基金の財源、加盟国拠出率に言及
  • 出典:United Nations Press Release SC/15549「Security Council Adopts Resolution 2719 (2023) Calling for Predictable, Sustainable, Flexible Financing for African Union Peace Support Operations」(2023年12月) (URL) – 安保理決議2719に言及
  • 出典:Al Jazeera「African Union suspends Mali after second coup」(2021年6月) (URL) – マリのAU加盟資格停止に言及
  • 出典:Reuters「Niger, Mali, Burkina Faso quit West African bloc ECOWAS」(2024年1月) (URL) – サヘル三国によるECOWAS脱退、サヘル連合結成に言及
  • 出典:Africa Center for Strategic Studies「Japan’s Engagements to Enhance Peace and Security in Africa through TICAD」(2022) (URL) – TICADを通じた日本の平和構築支援(訓練センター、人材育成)に言及
  • 出典:Ministry of Foreign Affairs of Japan「Japan’s Development Cooperation – Peacebuilding」(公式サイト) (Accessed 2024) (URL) – 日本の平和構築支援に言及
  • 出典:Danish Institute for International Studies (DIIS)「Funding AU Peace Support Operations: Navigating an Increasingly Complex Landscape」(2023) (URL) – AU平和活動の資金ギャップに言及
  • 出典:Carnegie Endowment for International Peace「The Sahel’s Coup Contagion: What’s Behind West Africa’s Democratic Reversal?」(2023) (URL) – サヘル地域のクーデター要因分析に言及

この記事はきりんツールのAIによる自動生成機能で作成されました

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