“国際安全保障の新たな視点: UNHCRと難民問題の現状と挑戦”

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国際安全保障の新たな視点 UNHCRと難民問題の現状と挑戦 国際安全保障/機関・協定
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UNHCRと難民問題 この記事では、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がこの地球規模の課題にどのように取り組み、どのような困難に直面しているのかを詳しく見ていきます。そして、世界と日本における難民問題の最新の状況、難民保護という人道的要請と国家の安全保障という政治的要請が時に緊張関係を生む実態、さらに「人間の安全保障」という日本も推進するコンセプトからこの問題をどう捉え直すべきかを探求します。国際社会全体の連携と責任の共有がかつてなく求められる今、私たち一人ひとりがこの問題について深く理解し、考えることの重要性を明らかにしていきます。

国際安全保障の新たな視点:UNHCRと難民問題の現状、挑戦、そして日本の役割

世界はいま、第二次世界大戦以降で最大規模とも言われる強制移動の危機に直面しています。紛争、迫害、深刻な人権侵害、そして気候変動の影響など、複雑に絡み合う要因によって故郷を追われる人々は後を絶ちません。2024年半ばには、その数は1億2,260万人を超え、うち約4,370万人が国境を越えて保護を求める難民です。伝統的な国際安全保障の議論が、国家間の軍事バランスや地政学的な競争に焦点を当てがちな中で、この「人の移動」という現象は、現代の安全保障環境を理解する上で決して無視できない、新たな視点を提供しています。難民の大規模な発生と移動は、受け入れ国の社会経済システムに多大な影響を与えるだけでなく、周辺地域の安定、さらには国際関係全体にも波及効果をもたらし得るのです。

  1. UNHCRの役割と使命:誰が難民を守るのか?
    1. 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)とは?
    2. 難民保護における法的枠組み:「難民条約」の意義と限界
  2. 世界の難民問題の現状:故郷を追われる人々は今
    1. 難民・強制移動の最新統計:危機は拡大している
    2. 主な難民発生地域と要因:どこで、なぜ人々は逃れるのか?
    3. 長期化する難民状況:「帰れない」現実
  3. 難民受け入れをめぐる国際的課題:誰が責任を負うのか?
    1. 国際的責任共有の原則と現実:理想とギャップ
    2. 再定住プログラムの現状:限られた希望の光
    3. 難民保護と国家安全保障の緊張関係:「安全保障化」の影
  4. 日本における難民問題の現状と対応:私たちはどう向き合うべきか?
    1. 民認定の状況と課題:閉ざされた扉?
    2. 外交政策と難民受け入れの変化:新たな動きはあるか?
    3. 国際的な支援と貢献:日本の役割は資金援助だけか?
  5. 難民問題と国際安全保障の関連性:人道問題を超えて
    1. 複合的安全保障リスクとしての難民問題
    2. 「人間の安全保障」の視点からの再考:一人ひとりの安全こそが
    3. 難民レジームと他の国際レジームの関係:複雑な相互作用
  6. 国際安全保障における難民問題の再定義:新たなパラダイムへ
    1. 紛争予防と平和構築との連関:川上からのアプローチ
    2. 国際協力の新たな枠組みの必要性:「グローバル・コンパクト」の先へ
    3. UNHCRの役割の変遷と課題:進化するマンデート
  7. 今後の展望と課題:持続可能な解決策を求めて
    1. 難民保護における革新的アプローチ:新たな希望を創る
    2. 気候変動と難民問題:避けられない未来への備え
    3. 日本の難民政策の将来:より開かれた社会へ
  8. まとめと今後の展望:共に築く平和な未来のために
    1. 参考リンク一覧

UNHCRの役割と使命:誰が難民を守るのか?

世界中で故郷を追われる人々が増え続ける中、その保護と支援の中心的な役割を担っているのが国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)です。この組織がどのような目的で設立され、どのような法的根拠に基づいて活動しているのかを理解することは、複雑な難民問題を読み解く上での第一歩となります。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)とは?

国連難民高等弁務官事務所(United Nations High Commissioner for Refugees、略称UNHCR)は、難民の保護と支援を国際的に主導するために設立された国連の専門機関です。その歴史は、第二次世界大戦後のヨーロッパで家を失い、避難を余儀なくされた数百万の人々を救済する必要性から始まりました。1950年12月14日、国連総会決議によってUNHCRは設立され、当初は3年間の期限付きの機関として発足しました。しかし、その後も世界各地で紛争や迫害が絶えず、難民問題が恒常化する中で、その任務は繰り返し延長され、現在に至っています。

今日、UNHCRはスイスのジュネーブに本部を置き、世界136の国と地域で活動を展開しています。約18,700人に上るスタッフ(2023年末時点)が、紛争地帯の最前線から難民キャンプ、都市部のコミュニティセンターに至るまで、さまざまな場所で難民、国内避難民、無国籍者、そして故郷への帰還を目指す帰還民の保護と支援に献身的に取り組んでいます。

UNHCRの基本的な使命は、迫害や紛争、暴力といった深刻な人権侵害から逃れてきた人々に対し、国際的な保護を提供し、彼らが安全かつ尊厳ある生活を送れるように支援すること、そして最終的には彼らが恒久的な解決策(自主的な帰還、受け入れ国での定着、または第三国への定住)を見出せるよう手助けすることにあります。その活動は、ノーベル平和賞を2度(1954年と1981年)受賞するなど、国際社会から高く評価されています。

難民保護における法的枠組み:「難民条約」の意義と限界

UNHCRの活動、そして国際的な難民保護体制全体の法的基盤となっているのが、1951年に採択された「難民の地位に関する条約」(通称、難民条約)と、その地理的・時間的制約を取り払うために1967年に採択された「難民の地位に関する議定書」です。日本も1981年に条約、1982年に議定書に加入しています。

難民条約は、主に以下の3つの重要な要素を定めています。

  1. 難民の定義: 条約第1条A(2)によれば、難民とは「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由として迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖(well-founded fear of being persecuted)のために国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖のためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」と定義されています。この定義は、誰が国際的な保護の対象となるかを判断する際の基本的な基準となります。

  2. 難民の権利: 難民条約は、締約国に対し、難民に対して自国民や他の外国人と同様の権利(移動の自由、教育へのアクセス、社会保障、労働の権利など)を可能な限り保障するよう求めています。

  3. ノン・ルフールマン原則(追放及び送還の禁止): 条約第33条1項に定められたこの原則は、難民保護の核心とも言えるもので、「締約国は、難民を、その生命または自由が人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由として脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ、いかなる方法によっても、追放しまたは送還してはならない」と規定しています。つまり、迫害の危険がある場所へ難民を強制的に送り返すことを固く禁じるものです。

しかし、この難民条約を中心とした法的枠組みも、現代の複雑化する強制移動の状況に完全に対応できているわけではありません。世界銀行の研究グループによる報告書(例えば、Özden, Ç. et al. (2022) “The Development Impact of the Refugee Convention”)では、難民条約の署名国であっても、実際の難民認定率や保護の質には大きなばらつきがあり、各国の政治的・経済的状況が難民受け入れ政策に強く影響を与えている実態が指摘されています。

また、気候変動による自然災害や環境悪化を理由に移動を余儀なくされる人々(いわゆる「気候難民」)や、国内で避難生活を送る「国内避難民(IDPs)」は、現行の難民条約の定義には必ずしも合致せず、国際的な保護の枠組みからこぼれ落ちてしまうケースも少なくありません。これらの新たな課題に対し、国際社会は既存の枠組みの解釈拡大や、新たな保護メカニズムの構築を模索しています。

世界の難民問題の現状:故郷を追われる人々は今

世界中で紛争や迫害、人権侵害などが絶えず、故郷を追われる人々の数は増加の一途をたどっています。UNHCRが発表する最新の統計データは、この問題の深刻さと地球規模での影響の広がりを如実に示しています。

難民・強制移動の最新統計:危機は拡大している

UNHCRの最新報告書「グローバル・トレンド・レポート」および「2024年中間トレンド」によると、2024年6月末時点で、紛争、迫害、暴力、人権侵害などにより故郷を追われた人々の総数は、世界で1億2,260万人に達しました。この数字は、2023年末の1億1,730万人からわずか半年で約530万人増加しており、過去12年以上にわたって連続的に増加傾向が続いています。これは、世界人口の約77人に1人が強制的に移動させられた経験を持つことを意味し、その規模の大きさを物語っています。

この1億2,260万人のうち、国境を越えて保護を求めている「難民」は約4,370万人と推定されています。その内訳は、UNHCRの任務下にある難民が約3,200万人、その他の国際的保護を必要とする人々(庇護申請者などを含む)が約580万人、そして国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の任務下にあるパレスチナ難民が約600万人です。

また、いずれの国からも国民として認められず、基本的な権利へのアクセスが著しく制限される「無国籍者」も、2023年末時点で約440万人が確認されており、これも深刻な人道問題です。実際にはこの数を大幅に上回る無国籍者が存在すると考えられています。

主な難民発生地域と要因:どこで、なぜ人々は逃れるのか?

近年の難民・強制移動者数の急増の背景には、いくつかの大規模な紛争や人道的危機があります。

  • スーダン: 2023年4月に勃発した軍事衝突は、数百万人の国内避難民と、チャド、南スーダン、エジプトなど周辺国へ逃れる多数の難民を生み出しました。2024年に入っても状況は悪化し続けています。

  • ウクライナ: 2022年2月のロシアによる全面侵攻は、第二次世界大戦後ヨーロッパで最大規模の難民危機を引き起こしました。多くのウクライナ国民が近隣諸国やさらに遠方の国々へ避難しています。

  • アフガニスタン、シリア、ベネズエラ、ミャンマーなども、依然として多くの難民や国内避難民を生み出し続けている主要な発生国です。

これらの難民発生の主な要因は、武力紛争や内戦、国家による組織的な迫害や深刻な人権侵害、特定の民族や宗教集団への弾圧など、多岐にわたります。

さらに近年では、気候変動の影響も無視できない要因となっています。UNHCRの報告によれば、強制移動を強いられた人々の約75%が、気候変動の影響を特に受けやすい国々に住んでおり、そのうち半数近くは、紛争と深刻な気候災害の両方に同時に直面しているという厳しい状況にあります。干ばつ、洪水、海面上昇、資源の枯渇などが、既存の社会経済的脆弱性を悪化させ、紛争のリスクを高め、人々の移動を加速させているのです。

長期化する難民状況:「帰れない」現実

難民問題のもう一つの大きな特徴は、その「長期化」です。UNHCRは、同じ国籍の難民5,000人以上が、受け入れ国で5年以上にわたって避難生活を送っている状態を「長期化した難民状況(protracted refugee situation)」と定義しています。

2024年6月時点で、UNHCRの任務下にある難民とその他の国際的保護を必要とする人々のうち、実に約2,500万人、全体の約66%(3分の2)が、このような長期化した難民状況に置かれています。これは、多くの難民にとって、避難生活が一時的なものではなく、数年、場合によっては数十年にも及ぶ恒常的な状態になっていることを意味します。

長期化する難民状況は、難民自身にとって深刻な影響をもたらします。教育や就労の機会が著しく制限され、将来への希望を見出しにくくなります。特に難民キャンプでの長期間の生活は、移動の自由の制約、衛生環境の悪化、心理社会的なストレス、国際援助への依存といった多くの問題を引き起こす可能性があります。また、受け入れ国にとっても、長期にわたる難民の受け入れは、社会インフラや財政への負担、地域住民との関係など、持続可能な対応が求められる大きな課題となります。

難民受け入れをめぐる国際的課題:誰が責任を負うのか?

世界中で故郷を追われる人々が増え続ける中、彼らを受け入れ、保護する責任を国際社会がどのように分かち合うべきかという問題は、常に大きな課題となっています。理想と現実の間には依然として大きな隔たりがあり、多くの困難が立ちはだかっています。

国際的責任共有の原則と現実:理想とギャップ

難民保護における国際的責任共有(international responsibility sharing)の原則は、難民問題という地球規模の課題に対し、単一の国や限られた地域だけが過度な負担を負うべきではないという考え方に基づいています。この理念は、2018年に国連総会で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト(Global Compact on Refugees)」によって、より具体的に推進されることになりました。このコンパクトは、法的拘束力はないものの、難民受け入れ国への支援強化、難民自身の自立促進、そして恒久的解決策へのアクセス拡大を目指し、国際社会の連帯と協力を呼びかけています。

しかし、現実はこの理想とは程遠い状況にあります。UNHCRの統計によれば、世界の難民(UNHCRの任務下にある難民とその他の国際的保護を必要とする人々)の約3分の1にあたる人々が、イラン、トルコ、コロンビア、ドイツ、ウガンダというわずか5カ国に集中して受け入れられています(2024年6月時点)。このうちドイツを除く4カ国は発展途上国または中所得国であり、地理的に紛争地域に近い国々が、その経済力に見合わない大きな負担を強いられている構図が浮き彫りになっています。世界の難民の約75%は低・中所得国によって受け入れられているのが実情です。

2023年12月に開催された第2回グローバル難民フォーラムでは、各国政府、国際機関、NGO、民間企業などが集い、具体的な支援策や資金拠出の誓約が行われました。しかし、国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)の移民研究部門長メリッサ・シーゲル氏が指摘するように、2019年の第1回フォーラムで行われた誓約のうち、実際に履行されたのは3分の1程度に過ぎないという厳しい現実もあります。UNHCR自身も慢性的な資金不足に直面しており、2023年には年間予算に対し4億ドル以上の不足が生じ、多くの人道支援プログラムが縮小や中止を余儀なくされました。この資金不足は2024年も継続しており、8月末時点で必要資金の3分の1しか確保できていない状況です。

再定住プログラムの現状:限られた希望の光

難民問題の恒久的解決策としてUNHCRが掲げるものには、主に「自主的帰還(Voluntary Repatriation)」「現地での定着・統合(Local Integration)」「第三国定住(Resettlement to a Third Country)」の三つがあります。このうち、第三国定住とは、最初に庇護を求めた国(第一庇護国)では適切な保護や恒久的な解決の見込みがない難民を、UNHCRの推薦に基づき、受け入れを表明した別の国(第三国)が難民として受け入れる制度です。

しかし、この再定住プログラムによって新たな生活の機会を得られる難民の数は、極めて限られています。UNHCRの推定によれば、2024年には世界で240万人以上の難民が再定住を必要としているとされていますが、実際に各国が提示する年間の受け入れ枠の合計は、そのごく一部(2023年には約9万6千人)に過ぎません。このギャップは、多くの難民にとって再定住が非常に狭き門であることを示しています。

再定住が進まない背景には、受け入れ国側の政治的事情や厳しい入国管理政策、社会統合のためのリソース不足、国民世論の反対など、さまざまな要因があります。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、国境閉鎖や移動制限により、世界の再定住プログラムに深刻な影響を与え、多くのプログラムが一時停止または大幅な縮小を余儀なくされました。

このような状況を補完するものとして近年注目されているのが、「補完的な受け入れ経路(Complementary Pathways for Admission)」です。これは、従来の再定住プログラムとは別に、難民が正規のルートで第三国へ移住し、そこで国際的保護を確保できるようにする仕組みです。具体的には、就労目的のビザ、留学ビザ、家族再会ビザ、人道ビザ、コミュニティによるスポンサーシッププログラムなどが含まれます。UNHCR駐日副代表のナッケン鯉都氏は、「難民問題が複雑化する中で、国連や一国だけでは解決できない。民間も含めて社会全体で取り組む必要がある」と述べ、日本においても企業や教育機関、市民社会がこうした補完的経路の提供に積極的に関わることへの期待を示しています。

難民保護と国家安全保障の緊張関係:「安全保障化」の影

難民保護という人道的な要請と、国家の安全保障を維持するという政治的な要請は、時に緊張関係を生み出します。特に2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件以降、多くの国々で難民政策や移民政策が国家安全保障の観点から厳しく見直され、いわゆる「安全保障化(securitization)」の傾向が顕著になりました。

難民条約自体も、国家の安全保障への配慮を完全に無視しているわけではありません。例えば、第9条では「この条約のいかなる規定も、締約国が戦時その他の重大かつ例外的な事態において、特定の個人について、その者が自国の安全のために真に危険であると認める十分な理由がある場合に、その者に関して自国の安全のために不可欠であると認める措置を暫定的にとることを妨げるものではない」と規定しています。

また、ノン・ルフールマン原則を定めた第33条も、第2項で「もっとも、当該難民がその居住する国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある場合または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該国の社会にとって危険な存在となった場合には、この条約の利益を要求することができない」として、例外を認めています。これらの条項は、国家が自国の安全保障や公の秩序を理由に、難民保護の義務を一部免れる余地を残していると解釈されることがあります。

2015年のいわゆる「欧州難民危機」や、その後ヨーロッパ各地で発生したテロ事件は、一部の政治家やメディアによって移民や難民とテロリズムが短絡的に結びつけられる言説を助長し、難民審査の厳格化、国境管理の強化、庇護希望者の収容施設の設置といった動きを加速させました。このような「安全保障化」の風潮は、本来保護されるべき難民に対する偏見や差別を助長し、彼らが庇護を求めることを一層困難にする危険性をはらんでいます。人道的義務と安全保障上の懸念のバランスをどのように取るかは、現代の難民政策における最も難しい課題の一つと言えるでしょう。

日本における難民問題の現状と対応:私たちはどう向き合うべきか?

国際社会の一員として、日本も難民問題と無関係ではありません。しかし、その対応については、国際的な基準や他の先進国と比較して、多くの課題が指摘されています。日本の難民認定の現状、近年の政策の変化、そして国際的な貢献について見ていきましょう。

民認定の状況と課題:閉ざされた扉?

日本は1981年に難民条約に、1982年には難民議定書に加入し、国際的な難民保護の枠組みに参加しています。しかし、実際に日本で難民として認定される人の数は、他のG7諸国などと比較して極めて少ない状況が長年続いています。

出入国在留管理庁の最新統計によると、2023年には13,823件の難民認定申請がありましたが、そのうち難民として認定されたのは303人(認定率約2.2%)でした。2024年の数字として提示された「取り込みたい情報」の12,373件の申請に対し190人(約1.5%)認定という数字は、2023年の実績からさらに減少している可能性を示唆していますが、これは特定期間の速報値である可能性もあるため、公式な年間統計を注視する必要があります。いずれにしても、日本の難民認定率が国際的に見て低い水準にあることは明らかです。

この認定率の低さの背景には、いくつかの要因が指摘されています。

  • 厳格な難民認定基準: 日本の難民認定審査では、難民条約上の「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」の解釈が非常に厳格であるとされています。特に、出身国政府による直接的な迫害行為の証明が重視される傾向があり、内戦や広範な人権侵害から逃れてきた人々が認定されにくいという課題があります。

  • 申請者側の立証責任の重さ: 迫害の恐怖を証明するための客観的な証拠を、申請者自身が集めて提出することが求められますが、故郷を命からがら逃れてきた人々にとって、これは極めて困難な作業です。

  • 審査プロセスの長期化と不透明性: 難民認定申請から最終的な結果が出るまでに数年を要するケースも珍しくありません。この間、申請者は不安定な法的地位に置かれ、就労も制限されるなど、経済的・精神的に大きな困難を抱えます。また、審査プロセスや不認定理由の透明性が十分でないとの批判もあります。

  • 「補完的保護」の限定的な導入: 2023年の入管法改正により、難民には該当しないものの、紛争などから逃れてきた人々を「補完的保護対象者」として保護する制度が導入されましたが、その適用範囲や処遇についてはまだ課題が残されています。

これらの課題に対し、国内外の人権団体や法律家、そしてUNHCRなどから、日本の難民認定制度の透明性と公平性の向上、審査基準の国際標準への適合、審査期間の短縮、申請中の生活支援の充実などを求める声が継続的に上がっています。

外交政策と難民受け入れの変化:新たな動きはあるか?

長らく難民受け入れに消極的とされてきた日本ですが、近年、特定の状況下においては、より柔軟な対応を見せるケースも出てきています。

  • ウクライナ避難民への対応: 2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、日本政府はウクライナから避難してきた人々に対し、難民認定申請とは別の枠組みで、身元保証人がいなくても入国を認め、在留資格や生活支援を提供するなど、迅速かつ比較的積極的な受け入れを行いました。2022年11月末までに2,158人がこの枠組みで日本に入国し、その後も受け入れは継続しています。これは、従来の日本の対応からは大きな変化と受け止められました。

  • ミャンマーやアフガニスタンからの避難民: 2021年のミャンマーでのクーデターやアフガニスタンでのタリバン復権後、日本はこれらの国々から避難してきた人々に対しても、緊急避難措置として在留や就労を認めるなど、一定の配慮を示しました。これにより、2022年の難民認定者数(202人)及び人道配慮による在留許可者数(1,760人)は、前年と比較して大幅に増加しました。

これらの変化は、日本の外交政策や国際情勢認識と連動している側面があります。特定の国や地域の人道危機に対し、国際社会の一員としての責任を果たすという姿勢を示すことで、日本の国際的評価を高めようとする意図も背景にあると考えられます。

また、日本は2010年度から「第三国定住プログラム」による難民受け入れを実施しています。これは、アジア地域の難民キャンプに長期間滞在しているミャンマー(ビルマ)難民を対象に始まり、その後、対象地域や人数枠を徐々に拡大しています。2020年度からは、アジア地域以外のUNHCRが推薦する難民も対象に含めるようになりました。受け入れ人数は年間数十人から百人程度と小規模ではありますが、日本が制度として難民を計画的に受け入れる一つの形として注目されています。

国際的な支援と貢献:日本の役割は資金援助だけか?

日本は、難民の直接的な受け入れには慎重な姿勢が目立つ一方で、UNHCRや世界食糧計画(WFP)などの国際機関を通じた資金面での国際貢献には非常に積極的です。日本のUNHCRへの拠出金は、アメリカ、ドイツなどに次いで常に上位に位置しており、2023年には約1億2,800万米ドルを拠出しました。「取り込みたい情報」で言及されている2025年の拠出(中央アフリカ共和国のスーダン難民支援に100万ドル、パキスタンのアフガン難民支援に300万ドル)も、こうした継続的な貢献の一環です。

資金援助は、難民キャンプの運営、食料・水・医療品の提供、教育支援、インフラ整備など、世界各地での人道支援活動を支える上で不可欠です。日本政府は、特に「人間の安全保障」の理念に基づき、紛争影響国や難民受け入れ国における自立支援や能力構築を重視した「難民支援の持続可能性」を高める取り組みを推進しています。

しかし、国際社会における「責任共有」の観点からは、資金提供だけでなく、難民の直接受け入れも含めた多角的な貢献が求められています。日本の難民認定数の少なさや社会統合への課題は、国際的なNGOやUNHCRからも改善を促されており、資金援助と受け入れのバランスの取れた貢献が今後の日本の大きな課題と言えるでしょう。

難民問題と国際安全保障の関連性:人道問題を超えて

難民問題は、単に保護を必要とする人々への人道的な配慮という側面だけでなく、国際社会全体の平和と安定に深く関わる、複雑な安全保障上の課題でもあります。この関連性を理解することは、より効果的な対応策を考える上で不可欠です。

複合的安全保障リスクとしての難民問題

大規模な難民の流出は、受け入れ国だけでなく、周辺地域、さらには国際社会全体に対して、多岐にわたる安全保障上のリスクをもたらす可能性があります。

  • 国家・地域の不安定化: 大量の難民が短期間に特定の地域へ流入することは、受け入れ国の社会インフラ(水、食料、住居、医療、教育など)に大きな負荷をかけ、社会サービスを圧迫します。これが既存の社会経済的な不満と結びつくと、地域住民と難民の間で緊張や対立が生じ、社会不安や治安の悪化を引き起こす可能性があります。また、国境管理の脆弱性を露呈させ、国家間の政治的緊張を高める要因ともなり得ます。

  • 紛争の波及・長期化: 難民の出身国での紛争が、難民の移動を通じて周辺国に波及したり、難民キャンプが武装勢力の兵員補充や再編、プロパガンダの拠点として利用されたりするリスクも指摘されています。例えば、1994年のルワンダ虐殺後、隣国ザイール(現コンゴ民主共和国)に形成された巨大な難民キャンプでは、虐殺に関与した旧ルワンダ政府軍や民兵組織が人道援助を悪用し、勢力を再編してルワンダへの越境攻撃を繰り返した事例は、人道支援と安全保障のジレンマを示す教訓とされています。

  • 過激派組織の浸透リスク: 難民の流れに紛れてテロリストや過激派組織の構成員が移動し、受け入れ国や第三国で活動を行うという懸念は、特に欧米諸国で「安全保障化」の言説を強める一因となっています。ただし、UNHCRや多くの研究機関は、難民自身がテロの脅威となることは稀であり、むしろ難民こそが紛争やテロの最大の被害者であると強調しています。

  • 人身売買や組織犯罪の温床: 保護が不十分な状況に置かれた難民、特に女性や子どもは、人身売買や性的搾取、強制労働といった深刻な人権侵害や組織犯罪の犠牲者となりやすい脆弱な立場にあります。

重要なのは、これらのリスクの多くは、難民の存在自体が直接的な原因なのではなく、むしろ彼らに対する適切な保護や支援が不足していること、あるいは紛争の根本原因が解決されないまま放置されていることに起因するということです。したがって、難民の権利を保障し、彼らが尊厳を持って生活できるような環境を提供することは、人道的な観点からだけでなく、安全保障上のリスクを軽減する上でも極めて重要ですอฟ。

「人間の安全保障」の視点からの再考:一人ひとりの安全こそが

従来の国家の領土や主権の保全を中心とする伝統的な国家安全保障の考え方に対し、1990年代以降、個々人の生命、生活、尊厳を脅かすあらゆる脅威からの自由と、人々がそれぞれの可能性を最大限に発揮できる能力強化を目指す「人間の安全保障(Human Security)」という概念が国際的に注目されるようになりました。日本政府もこの理念を外交の柱の一つとして積極的に推進しています。

この「人間の安全保障」の視点から難民問題を捉え直すと、難民保護と安全保障は必ずしも対立するものではなく、むしろ相互に補強し合う関係にあることが見えてきます。

  • 脅威の多様性: 人間の安全保障は、紛争やテロといった直接的な暴力だけでなく、貧困、飢餓、感染症、自然災害、環境破壊、人権侵害なども個人の安全を脅かす要因として捉えます。難民はまさにこれらの多様な脅威に複合的に晒されている人々です。

  • 保護と能力強化: 人間の安全保障は、人々を脅威から守る「保護(Protection)」と、人々が自らの力で困難を乗り越え、生活を再建していくための「能力強化(Empowerment)」を車の両輪として重視します。難民支援においても、緊急の人道援助だけでなく、教育、職業訓練、法的支援などを通じて、難民が自立し、受け入れ社会に貢献できるような力を育むことが重要です。

  • 責任共有の促進: 「人間の安全保障」の理念は、国境を越える脅威に対して国際社会が連帯して取り組む必要性を強調します。これは、難民保護における「責任共有」の原則とも親和性が高く、従来の「負担分担(burden-sharing)」というやや消極的な表現から、より積極的で包括的な「責任共有(responsibility-sharing)」や「能力構築(capacity-building)」へのパラダイムシフトを促す力を持っています。

日本は、人間の安全保障基金を国連に設立するなど、この理念の普及と実践に努めてきました。UNHCRの活動に対しても、この基金を通じた支援が行われており、特に紛争後の帰還民支援などにおいて、「人道支援から開発への円滑な移行(nexus approach)」を重視する政策を展開しています。これは、難民問題を一時的な人道危機としてだけでなく、長期的な開発と平和構築の文脈の中で捉える視点を提供するものです。

難民レジームと他の国際レジームの関係:複雑な相互作用

難民問題に対処するための国際的なルール、規範、制度の総体(いわゆる「難民レジーム」)は、孤立して存在するわけではなく、他のさまざまな国際レジームと複雑に相互作用しています。国際安全保障学会の論文(例えば、小泉康一「難民レジームの危機の検討」『国際安全保障』第45巻第3号, 2017年)などでも指摘されているように、特に以下のレジームとの関係が重要です。

  • 人権レジーム: 国際人権法は、難民の権利保護の基盤を提供し、難民条約を補完する役割を果たします。例えば、拷問等禁止条約もノン・ルフールマン原則に類似した規定を含んでおり、難民条約の適用範囲外のケースでも保護の根拠となり得ます。

  • 人道レジーム: 国際人道法(戦時国際法)や、人道支援に関する原則や規範は、紛争下での市民保護や、難民キャンプの運営、人道アクセスの確保など、難民支援活動の指針となります。

  • 安全保障レジーム: 国連安全保障理事会の決議や、テロ対策、国境管理、武器移転規制などに関する国際的な取り決めは、難民の移動や保護に直接的・間接的な影響を与えます。前述の「安全保障化」の傾向は、このレジームの影響力の増大と関連しています。

  • 開発レジーム: 持続可能な開発目標(SDGs)に代表される国際的な開発目標や、開発援助の枠組みは、難民の自立支援や受け入れ国の負担軽減、紛争の根本原因への対処といった点で、難民問題の長期的解決に貢献します。

各国政府は、これらの複数のレジームが併存し、時には競合する状況の中で、自国の国益や政策目標に応じて、特定のレジームを選択的に重視したり(フォーラム・ショッピング)、ある課題(例えば難民問題)を別のレジームの枠組み(例えば経済移民やテロ対策の枠組み)の中で処理しようとしたりする(レジーム・シフティング)ことがあります。これにより、国家の政策的選択肢は広がる一方で、難民保護という本来の目的が見失われたり、難民レジームの規範的独立性が損なわれたりするジレンマも生じ得ます。

国際安全保障における難民問題の再定義:新たなパラダイムへ

難民問題は、もはや単なる人道的な悲劇として片付けられるものではなく、国際安全保障の構造そのものに影響を与える重要なファクターとして認識されつつあります。この問題をどのように捉え直し、国際社会がどのように対応していくべきか、新たなパラダイムが求められています。

紛争予防と平和構築との連関:川上からのアプローチ

難民の大規模な発生は、多くの場合、深刻な紛争や大規模な人権侵害が既に起きている、あるいは起きつつあることの明確な兆候です。したがって、難民の移動パターンや庇護申請の動向を注意深く監視・分析することは、紛争の早期警戒や予防的措置を講じる上で重要な情報となり得ます。難民問題への対応を、事後的な人道支援に留めるのではなく、紛争のサイクル全体の中で、予防、対応、そして平和構築という一連のプロセスに統合していく視点が不可欠です。

UNHCRの活動も、このような認識の変化を反映して、その範囲を拡大させてきました。伝統的な難民の国際的保護と支援に加え、紛争が終結した後の難民の安全な自主的帰還の促進、帰還先での再定着支援、さらには、紛争が深刻化する前の段階での予防外交や国内避難民への支援といった、より川上での活動にも関与するようになっています。

特に1990年代初頭のクルド難民危機以降、UNHCRの活動が国連平和維持活動(PKO)や多国籍軍の活動と連携するケースが増えたことは、難民問題を国連憲章第7章に定められる「国際の平和及び安全の維持」という文脈で議論する契機となりました。難民の保護と支援は、それ自体が人道的な目的であると同時に、地域の安定化や平和の再建に貢献しうるという認識が広がりつつあります。

国際協力の新たな枠組みの必要性:「グローバル・コンパクト」の先へ

難民問題の複雑化、大規模化、長期化に対応するためには、従来の国際協力のあり方を見直し、より包括的で実効性のある新たな枠組みを構築する必要があります。特に、難民受け入れの負担が地理的に紛争に近い一部の発展途上国に不均衡に集中している現状を是正し、「公平な責任共有」を実現するための具体的なメカニズムの創設が急務です。

2018年12月に国連総会で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」は、この方向性を示す重要な一歩です。このコンパクトは法的拘束力を持つ条約ではありませんが、以下の4つの主要目標を掲げ、国際社会全体の連帯と協力を促進することを目指しています。

  1. 難民受け入れ国への圧力の軽減

  2. 難民の自立の促進

  3. 第三国定住その他の補完的経路を通じた解決策へのアクセスの拡大

  4. 難民の出身国における安全かつ尊厳ある帰還のための条件整備の支援

このコンパクトの具体化のため、4年に一度「グローバル難民フォーラム」が開催され、各国政府、国際機関、NGO、民間企業、学術機関、そして難民自身が参加し、具体的な誓約やベストプラクティスの共有が行われています。しかし、前述の通り、誓約の履行状況や資金不足といった課題は依然として大きく、理念を現実に変えていくための持続的な努力が求められています。
日本を含む先進国には、従来の資金提供に加え、難民の直接受け入れ枠の拡大、再定住プログラムへの積極的な参加、そして「補完的な受け入れ経路」(就労、教育、家族再会などを通じた受け入れ)の開発と実施など、より多様な形での貢献が期待されています。

UNHCRの役割の変遷と課題:進化するマンデート

UNHCRは、設立当初の第二次世界大戦後のヨーロッパの難民問題への対応という限定的な役割から、現在では世界中のあらゆる地域の紛争や迫害から逃れる人々、さらには国内避難民や無国籍者まで、その保護・支援対象を大幅に拡大してきました。その活動内容も、伝統的な法的保護や物質的援助に加え、教育、保健医療、生計支援、心理社会的ケア、そして平和構築や開発支援との連携など、より広範で多角的なものへと進化しています。これは、難民問題自体の性質の変化と、国際政治・経済環境の変動に対応してきた結果と言えるでしょう。

しかし、このような役割の拡大と活動の多様化は、UNHCRにとって新たな課題も生み出しています。

  • マンデートの範囲と専門性: 難民保護という中核的な専門性と、より広範な人道・開発アクターとしての役割との間で、どのようにバランスを取り、リソースを配分していくかという問題があります。

  • 政治的中立性と人道アクセス: 紛争地域での活動においては、全ての当事者からの中立性を保ちつつ、最も脆弱な立場にある人々へのアクセスを確保するという、非常にデリケートな交渉と判断が常に求められます。時に、人道支援が政治的に利用されたり、特定の紛争当事者に利する結果となったりするリスクとも向き合わなければなりません。

  • 資金調達の不安定性: UNHCRの活動資金の大部分は、各国政府からの任意拠出によって賄われています。そのため、国際的な注目が集まる大規模な人道危機には資金が集まりやすい一方で、忘れられた危機や長期化する難民状況への支援は資金不足に陥りやすいという構造的な問題を抱えています。2021年以降のアフガニスタン、ウクライナ、スーダンなど、複数の大規模な危機が同時に発生したことで、UNHCRの財政は一層逼迫しており、活動の持続可能性を確保するための安定した資金基盤の構築が喫緊の課題となっています。

今後の展望と課題:持続可能な解決策を求めて

世界が直面する難民問題は、その規模と複雑さにおいて前例のないレベルに達しています。この困難な状況に対し、国際社会はどのような未来を描き、どのような課題に取り組んでいくべきなのでしょうか。

難民保護における革新的アプローチ:新たな希望を創る

長期化し、複雑化する難民問題に対応するためには、従来の枠組みにとらわれない、より革新的で包括的なアプローチが不可欠です。特に、難民を単なる援助の受け手としてではなく、彼らが持つ能力や経験を活かし、自立して受け入れ社会に貢献できるような主体として捉える視点が重要になります。

  • 難民キャンプからの脱却と都市型支援の強化: 長期的な難民キャンプでの生活は、多くの問題を生む可能性があります。可能な限り、難民が地域社会の中で生活し、教育や就労の機会を得られるような「キャンプ外」支援や都市部での支援を強化していく必要があります。

  • 教育と技能開発への投資: 子どもたちや若者への質の高い教育機会の提供は、彼らの将来だけでなく、受け入れ社会全体の未来にとっても極めて重要です。また、成人の難民に対しても、現地の労働市場のニーズに合った職業訓練や技能開発プログラムを提供し、彼らの就労と経済的自立を促進することが求められます。

  • 民間セクターとの連携強化: 企業による難民の雇用、インターンシップ機会の提供、サプライチェーンへの難民事業者の参画、難民起業家への投資など、民間セクターの資金、技術、ノウハウを活用した難民支援の可能性はますます広がっています。日本でも、いくつかの企業が難民の就労支援に積極的に取り組み始めています。

  • テクノロジーの活用: デジタル技術を活用した遠隔教育、オンラインでの言語学習支援、キャッシュベースの支援(現金給付)、身分証明や資格認定のデジタル化など、テクノロジーは難民支援の効率性と効果を高める上で大きな可能性を秘めています。

  • 難民自身の参加とリーダーシップの尊重: 難民支援の政策決定やプログラム実施のあらゆる段階で、難民自身の声を聞き、彼らの参加を促し、リーダーシップを尊重することが、より効果的で持続可能な支援につながります。

気候変動と難民問題:避けられない未来への備え

気候変動は、21世紀における強制移動の最も大きな要因の一つになると予測されています。UNHCRの報告によれば、既に強制移動を強いられた人々の約75%が気候変動の影響を強く受ける国々に住んでおり、その多くは紛争と深刻な気候災害の複合的な影響に苦しんでいます。海面上昇、砂漠化、頻発する異常気象(干ばつ、洪水、サイクロンなど)は、人々の居住環境や生計手段を破壊し、新たな移動を引き起こし、既存の社会経済的脆弱性を悪化させ、資源をめぐる紛争のリスクを高めます。

しかし、現行の国際的な難民保護の枠組み(難民条約など)は、気候変動や自然災害を直接的な理由とする移動者を「難民」として明確に定義しておらず、いわゆる「気候難民」の法的な地位や保護については、国際的なコンセンサスがまだ形成されていません。今後、気候変動による移動がますます増加することが避けられない中で、この問題に対する国際的な法的・制度的枠組みの整備や、予防的な気候変動適応策への投資、そして移動を余儀なくされた人々への人道的支援と保護のあり方について、真剣な議論と行動が求められています。

日本も、特にアジア太平洋地域における島嶼国や沿岸地域が気候変動の深刻な影響を受けやすいことを認識し、この問題に積極的に取り組む国際的責任があります。

日本の難民政策の将来:より開かれた社会へ

日本の難民政策は、国際的な基準や人道的な要請に応える上で、多くの改革と改善が求められています。

  • 難民認定制度の抜本的改革: 難民認定基準の明確化と国際標準への適合、審査プロセスの迅速化と透明性の向上、独立した不服申し立て機関の設置、申請者の権利擁護の強化(法的支援の充実など)は、喫緊の課題です。

  • 「補完的保護」制度の実質化: 2023年に導入された補完的保護制度が、紛争などから逃れてきた人々を実質的に保護し、安定した法的地位と適切な処遇を保障するものとなるよう、その運用を改善していく必要があります。

  • 受け入れと社会統合体制の強化: 難民として認定された人々や補完的保護対象者が、日本社会で尊厳を持って自立した生活を送れるようにするためには、包括的な社会統合支援策が不可欠です。これには、質の高い日本語教育、職業訓練と就労支援、適切な住居の確保、医療・福祉サービスへのアクセス保障、子どもの教育支援、そして地域社会における多文化共生意識の醸成などが含まれます。

  • 市民社会との連携: 日本では、多くのNGOやNPO、弁護士、ボランティアなどが、難民申請者の支援や社会統合の促進に熱心に取り組んでいます。政府はこれらの市民社会組織との連携を強化し、その活動を支援していくべきです。

  • 少子高齢化社会における新たな視点: 日本が直面する深刻な少子高齢化と労働力不足という課題を考える上で、難民や移民の受け入れを、人道的な観点からだけでなく、社会の多様性と活力を高め、経済社会の持続可能性に貢献しうる新たな機会として捉え直す視点も重要になってくるでしょう。

まとめと今後の展望:共に築く平和な未来のために

国際安全保障のレンズを通して難民問題を考察する際、私たちは伝統的な国家中心の安全保障観から一歩進み、一人ひとりの人間の尊厳と安全を中核に据える「人間の安全保障」の視点がいかに重要であるかを再認識させられます。難民の保護と国家の安全保障は、決して二律背反の関係にあるのではなく、むしろ適切な政策と国際的な協調、そして長期的な視点に立った取り組みによって、相互に補強し合う関係を築くことが可能です。

難民問題は、単に一握りの国々が対応すれば済む人道的な課題ではなく、その根源には紛争、貧困、不平等、ガバナンスの欠如、そして気候変動といった、地球規模の複雑な要因が絡み合っています。したがって、その解決には、発生国、通過国、受け入れ国、そして国際機関、市民社会、民間セクターといったあらゆるアクターが、それぞれの役割と責任を自覚し、連携して取り組む「グローバル・パートナーシップ」が不可欠です。特に、難民受け入れの負担が一部の発展途上国に偏っている現状を是正し、「公平な責任共有」の原則を実質的なものにしていく努力が、国際社会全体に求められています。

日本もまた、この地球規模の課題から目を背けることはできません。国際社会の責任ある一員として、これまでの資金面での貢献に加え、難民の直接受け入れの拡大に向けた制度改善、国内における難民認定プロセスの公正性と効率性の向上、そして受け入れた難民が日本社会の一員として尊厳を持って生きていけるための社会統合支援の充実など、より包括的で積極的なアプローチが期待されています。

UNHCRをはじめとする国際社会の努力は、難民という最も脆弱な立場に置かれた人々を保護するという直接的な目標だけでなく、紛争の根本原因に対処し、平和を構築し、そしてより公正で持続可能な世界を実現するという、より大きな目標にも貢献するものです。私たち一人ひとりがこの問題の重要性を理解し、それぞれの立場で何ができるかを考え、行動していくことが、未来への希望を繋ぐ確かな一歩となるでしょう。


 

参考リンク一覧

  • UNHCR (国連難民高等弁務官事務所) 日本語公式サイト:(URL) 

  • UNHCR Global Trends Report (英語):(URL) 

  • UNHCR Mid-Year Trends (英語):(URL) 

  • 出入国在留管理庁 難民認定制度について:(URL) 

  • 外務省 人間の安全保障:(URL) 

  • 難民支援協会 (JAR): (URL

  • 小泉康一「難民レジームの危機の検討―負担分担と安全保障の関連から―」『国際安全保障』第45巻第3号、2017年、国際安全保障学会。(URL

  • 滝澤三郎「難民と国内避難民をめぐるダイナミズム」『移民政策研究』第8号、2016年、移民政策学会。(URL

  • UNU-MERIT “Latest developments in global refugee policy: UNU-MERIT expert Melissa Siegel weighs in” (英語):(URL) 

(上記リンクは記事作成時点のものです。リンク切れや内容の変更についてはご容赦ください。最新の情報は各機関の公式サイト等でご確認ください。)

この記事はきりんツールのAIによる自動生成機能で作成されました

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